マラソンレースでGPSウォッチを使うときの注意点
〜見えざるペーサーはスゴい! でも高精度の落とし穴にハマるな!〜

ハッスル社員B(男性)が東京マラソン2013でちょっと面白いチャレンジをやってきましたので、そのレポートです。
少し長い文章ですが、お時間のある方、ぜひお付き合いください。

フルマラソンをガーミンの指示どおりに走る!

11月の大阪マラソンと同様に、今回も直前の不十分な走り込み=練習不足の状態でフルマラソンに臨むことになりました。
レース前1ヶ月間の総走行距離はおよそ90km。インターバルやビルドアップといったスピード練習も直前に1回ずつくらいしか行えませんでした。

「さて、どう走ろうか?」と考えた末に、今回はガーミンの「ワークアウト機能」をフル活用して走りきるという方法を思いついたのです。

ワークアウト機能というのは、目標とするペースを任意の距離ごとに設定しておくと、スピードがその設定範囲を外れた場合(遅かったり、早かったり)に、ガーミンがアラート音とバイブレーションで知らせてくれるというものです。
➡➡➡ 言ってみれば、「見えざるペーサー」です。それも限りなく完璧に近いペースメーキングをしてくれます。

個人的には、このワークアウト機能こそが、他社のGPSウオッチには無い、ガーミンの真骨頂のひとつだと思っています。

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ワークアウト機能をインターバル練習などで使うことは何度もやってきましたが、レースで使うのは、実は今回が初めてです。 頼もしいペーサー役に選んだのは、ForeAthlete920XTJ。さらに心拍計(ハートレートセンサー)も装着します。

目標ペースを事前に設定する

まず、目標とするペース範囲を事前に設定します。今回、目標タイムを4時間切りと決めました。練習不足の今の自分にとって目標にできるのは、せいぜいサブ4がギリギリ精一杯と思ったからです。

そこで、最初はゆっくり入って、最終的にサブ4を達成できるようなペース目標を、5kmごとに分割して算出。ピークは20km〜35kmに持ってきます。それをガーミンコネクト(WEBアプリ)を使って「ワークアウト」のプログラムに落とし込みます。(設定値の詳細については別の機会に譲ります)

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ちなみに、ワークアウト設定はガーミン910や610の本体でも行えますが、私はいつも、より簡単なガーミンコネクトで作っています

目標とした5kmごとのペースゾーンをグラフにしたのが下の表です。

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それぞれ10秒の幅を持たせて、目標のゾーン(濃い緑と薄い緑の2本の折れ線グラフの間)を作りました。例えば最初の5kmの平均ペースは6:00/kmから5:50/kmの間で走る、というような感じです。
ゴールタイムは、上の折れ線グラフ(濃い緑)のとおりに走れば3時間52分29秒。下の折れ線グラフ(薄い緑)のとおりに走れば3時間59分31秒となるはずです。つまり、この範囲内で走りきることができれば4時間を切れるということです。
このワークアウトのプログラムを、USB経由でForeAthlete 910XTJに同期して、データを送り込んでおけば準備完了です。

果たしてアラートは鳴り続けるのか?

さあ、レース当日です。
今年の東京マラソンは天気に恵まれ、過去のようにスタート前に寒すぎて体が凍えてしまう(泣!)というようなこともありませんでした。

先に書いたように、レースをガーミンのワークアウトの指示どおりに走るというのは、自分でも初めての試みです。走り出すまでは、「レース中、ずっとアラートが鳴りっ放しになったらどうしよう?」と、とても不安だったのですが、走り始めてみて、これが杞憂であったことを知ります。

5kmごとの自動ラップ設定にしているので、新しいラップに入った直後は測定が安定せず、速すぎる!とか、遅すぎる!とか、ガーミンのアラートがやかましく鳴りますが、500mも走っていると平均ペースが安定してきて、予想とは裏腹に、レース中にアラートが鳴ることはほとんどありませんでした。(もちろん、自分の現在の実力を超えるペース設定をした場合には、この限りではないと思いますので、あしからず)

とにかく意識したことは、10秒幅で設定したペースゾーンの範囲をしっかりキープしながらひたすら走る!ということだけです。不思議なもので、ガーミンの示す値を気にしていると、沿道の1kmごとの距離表示看板はほとんど目に入ってきません。かと言って、時計だけを見ているわけではなく、逆に周りの景色をゆっくり眺めながら走る余裕まで生まれました。ガーミンがアラート(音とバイブレータ)を鳴らさなければ目標ペース内で走れているということですから、時計画面はいちいち気にならなくなるのです。スカイツリーがよく見える場所が3カ所もあることを、今回はじめて知ったくらいです。

結果は・・・想定外!?

さて、結果です。
下図は、先ほどの事前に設定した目標ペース幅のグラフに、実走データ(赤線)を重ね合わせたものです。

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ご覧のとおり、目標ペース幅の範囲内で見事に走りきることができました。加えて、ガーミンが時々鳴らすアラートは、大きなプレッシャーになるわけでもなく、目標としたペースを見事にコントロールしてくれたと感じています。ゆっくり風景を見る余裕が出たくらい、とても走りやすかったというのが印象です。
素晴らしいペーサー!! 最後まで設定どおりのスピードで走りきり、完璧なペースマネジメントができて大満足!!

ところが、、、です。目標タイムの4時間切りは・・・できなかったのです。
公式ネットタイムは4時間2分12秒。手元のガーミンのタイムも、スタート通過時からのネットで4時間2分11秒。どちらも変わりありません。
なぜ?何故?ナゼ?・・・ ?? いろいろな考えが頭を巡ります

まず、私が走った距離は、ガーミンではどう記録されたのでしょうか?
ForeAthlete910XTJが計測した距離は、43.43 km。フルマラソンの公式距離より1.235kmも多い距離です。(ちなみに、同時に装着して走ったエプソンのSS-700が計測した距離は43.81kmでした。)

「それって、ガーミンが不正確だからじゃない?」 そう考えてしまうかもしれません。けれども、残念ながら最も正解に近い解答ではありません。もちろん、GPSではエラーも若干ながら発生します。ただ、その誤差は微々たるもの。ガーミンはかなり正確に距離を計測しています。

でも、そこが落とし穴でした。問題は、私が実際に走った距離にあったと思われます。

自分が走った距離は42.195kmよりも遥かに長い!?

理屈は、こうです。
東京マラソンは、3万6000人が走る巨大レース。コースとなった幹線道路の広さも半端なものじゃありません。飯田橋の外堀通りあたりは、上下線合わせて30mほども幅があるでしょう。 さらに、東京マラソンのコースは意外にカーブが多いのです。数えてみると、90度以上で曲がるカーブが、折り返しを含めて30箇所。
この、曲がりくねった、相当に幅の広いコースを、とんでもない規模の人数の中で、トップ集団のエリートランナーでもない私が、最短距離で走り抜く、というのは、もうほとんど不可能と言い切ってもいいでしょう。給水には何度も立ち寄り、沿道の人とハイタッチ、カメラマンに向かってピースでにっこり、オマケに10km過ぎにはトイレにまで立ち寄ったのです。つまり、実際には相当に蛇行しながら走ったものと思われます。
「それにしたって、距離はそんなに大きく変わるものじゃないでしょう?」 そう思われる方も少なくないでしょう。

では、「蛇行」しながら走ると、実際にどのくらい距離が増えるのか?
それを知るべく、実験してみました。

トラック実験は、事実を如実に示した

実験は、400mトラックを使って行いました。計測した機種はレース時と同様にガーミンForeAthlete 910XTJです。

① 400mトラックの一番インライン際を、蛇行せずに走る
まず、400mトラックの一番イン側のライン際を、蛇行せずにギリギリで走ります。念のため5回走りましたが、計測距離は下表の通り、5回とも400mジャストになりました。(ちなみに、ガーミンコネクトでは10m単位は四捨五入になります)

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② 次に蛇行走行を試す(蛇行幅を変えて3回)
次に蛇行走行をしてみました。蛇行幅を変えて3回走っています。上から、トラックのインのライン際から、外に向かって3mまでの幅で蛇行。その下も同じように5m幅、そしてトラックの幅一杯を使って10m幅をジグザクになるように蛇行しながら走った結果です。

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一目瞭然の通り、ジグザクの蛇行幅が広くなるほど、走行距離が伸びています。
1番上の、わずか3mの範囲で蛇行したデータでさえ、+10mになっています。これは400mに対して+2.5%です。さらに5m幅の蛇行では+30m(7.5%)、10m幅の蛇行では+60m(15%)と、どんどん距離が長くなります。
仮に、42.195kmを、上記のように3m程度の幅で蛇行したとしても、理論上では+2.5%=実に43.249kmを走ることになるわけです。

私の走行ルートを記録した「ガーミンの計測距離」は、43.43km。42.195kmに対して、+3%です。上記の理屈からすれば、充分に考えられる範囲の結果です。

レースでガーミンをペーサーとして使うなら・・

さて、結論です。
マラソンレースで、ガーミンのワークアウト機能を使ってリアルタイムにペース管理をしながら走ろうと思ったら、42.195kmよりも長い距離を走るという想定のもとで目標ペースを設定しないといけないと思います。
個人的な経験だけで言ってしまうと、高いビルや高架が林立する都市型のマラソンでは、42.195kmに600m〜1.2kmをプラスした距離で設定しておくと良いと感じています。途中でトイレに寄る可能性がある場合は、さらに100mくらい足しておいた方が良いでしょう。
かたや、板橋シティマラソンをはじめとする、直線+障害物の少ない河川敷を走るようなレースでは、プラス200〜300m程度の加算で充分だというのが個人的見解です。

「おい、随分幅があるじゃないか!」と言う声が聞こえてきそうですが、コースの道路幅、混み具合、障害物などを考慮して、レースごとに仮説を立てていかなければならないと思っています。ただし、上記数値の目安は、これまでの私個人のほんの少しのレース結果から推測したものです。
皆さんもぜひ今後の経験の中でご自分のデータを導き出していってください。

最後に

こうしたことは、私も頭では分かってはいましたが、今回ガーミンのワークアウト機能を使い、かなりシビアにペースの設定をしたことで、現実を明確に理解することが出来ました。

「意外と設定が面倒くさいな」と思われるかもしれませんが、このガーミンのワークアウト機能というのは、一度使ったらやめられない!と私は感じています。とにかく相当正確にペース管理をしてくれる、精度の高いペーサーになってくれます。

マラソンレース本番でも、うまく付き合えば今の自分の走行状況を刻々とリアルタイムに明らかにしてくれます。ガーミンを所有している方なら、使ってみない手はありません。まずは、日頃の練習(インターバルやビルドアップ)で、試しに利用されてみてはいかがでしょうか。

iPhoneアプリでガーミンコネクトが見られるようになった!〜 「Garmin Connect Mobile」~

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