準天頂衛星「みちびき」の明るい未来

人工衛星のイメージ

GPSを搭載したランニングウオッチ「ガーミン」が日本ではじめて発売されたのは2004年9月のことでした。
初号機であるForeAthlete 201は、当時としては非常に画期的な製品でした。ただ、その形は、下の写真にあるように、横長の大きなタイマーが乗ったような形状をしており、今考えてみれば、実用性の面でかなり難があったようにも思えます。

ForeAthlete 201

ハッスル社員が初めて購入したガーミンは、2007年7月に発売になったForeAthlete 205でした。その当時のランニングウオッチの相場からすれば、かなり高額な商品でしたので、清水の舞台から飛び降りるつもりで大枚をはたいて買った記憶があります。

ForeAthlete 205

FA205のボディも、まだ大きくて分厚い筐体でしたが、ちゃんと時計の形をしており、腕に巻いた時のフィット感もそれなりに良く、満足して4年ほど使い込みました。

その後、各社からGPS機能を搭載したランニングウオッチが続々と投入され、バラエティに富んだ製品が出揃うまでになりました。先日発表になったApple WatchのSeries2も、ようやくGPSに対応することになったようです。

そんな、今や当たり前ともなってきたGPS機能ですが、最近よく耳にするのが「準天頂衛星 みちびき対応」というキーワードです。
今回の“走って発見”では、この「みちびき」について少しご紹介したいと思います。

「みちびき」に対応すると、どうして精度が上がるのか?

「みちびき」は日本のほぼ真上の上空を飛んでいる、日本が独自に打ち上げた衛星の総称です。ただし、現時点で打ち上げられ運用されている日本の衛星は、まだ1機のみです。
では、「みちびき」に対応したGPSウオッチはどうして計測精度が向上するのでしょうか?

現在、米国のGPS衛星は合計で31機が運用され、地球全体をカバーしています。これまでは、カーナビなどを始めとする日本のサービスも、この米国の衛星に相乗りする形で提供するしかありませんでした。
しかし、米国のGPS衛星は、日本の真上にあるわけではありませんので、斜め上の方角に向かって衛星信号を探しにいくことになります。時間によってはまったく見えない方向にある衛星もたくさんあります。現在、日本から常に見えるGPS衛星は6機程度と言われています。
だから、ビルや山などの遮蔽物によって衛星信号が遮断されるということも頻繁に起こります。

GPS機器が現在位置を特定するためには、最低4機のGPS衛星をキャッチしなければいけません。
時間や季節によって、GPS信号をキャッチするのに普段より長くかかることがありますが、この衛星捕捉のスピードは、その時上空にある米国のGPS衛星の“位置”にかなり大きく左右されるのかもしれません。

しかし、GPSを利用することが、私たちの生活に非常に深く根付いてきた中で、海外の衛星に頼るだけではいけないと考えた日本政府は、日本独自の衛星を飛ばすことを計画し、JAXAが打ち上げを託されました。
その日本独自の衛星の総称が「みちびき」です。

日本にとっての「みちびき」の最大の特徴は、米国のGPSやロシアのGLONASSなどと違って、衛星が日本のほぼ真上にいるという点です。いつもほぼ真上に位置していることから「準天頂衛星」と呼ばれます。

以下の図をご覧ください。これは、いいよねっと社が作成した、「みちびき」とGPS、GLONASSとの受信イメージの違いを絵にしたものです。

いいよねっと社が作成した、「みちびき」とGPS、GLONASSとの受信イメージの違い

衛星が真上にあるということは、ビルや山などの遮蔽物の影響を受けにくいということになります。

ITビジネスの情報サイト「BCN Bizline」の記事によれば、『西新宿の高層ビル街で米GPSだけの測位だと50%くらいしか測位できなかったのが、「みちびき」が1機あるだけでざっくり75%くらいまで測位の成功率が高まる』のだそうです。
このBCN Bizlineの記事は、「みちびき」に関する情報が非常にわかりやすく解説されていて、さらには「みちびき」を本格活用した将来のビジネスについても詳しく紹介されています。とても面白いので、ご興味がある方はぜひご一読ください。

2018年に4機体制に、さらに最終的には7機に増える「みちびき」の威力

「みちびき」は現在1機しか飛んでいないということは前述しました。位置を特定するためには最低4機の衛星信号を受信することが必要ですから、現時点ではまだ「みちびき」は、GPSの補助的な役割しか果たすことができません。しかし、その1機だけでも相当な測位の精度向上が図られることは、先ほどの「BCN Bizline」の記事でご紹介しました。
一方で、衛星は宇宙空間を移動していますので、1機だけですと、常に日本の上空にいるというわけにはいきません。複数の衛星が上がっていてこそ、本格的な威力を発揮するものです。

そこで気になるのが、今後の打ち上げ計画です。
政府が発表した宇宙基本計画によれば、2017年度までに追加3機の「みちびき」が打ち上げられ、2018年から4機体制での商用サービスが開始される予定です。
さらに2023年をめどにさらに3機を加え、合計7機体制にすることが計画されているのです。

政府の資料によると、誤差の少ない安定した測位は、GPS信号が8機以上見えるようになれば改善するとされています。2018年には「みちびき」が“常時3機”見えるようになるそうですので、従来のGPSと合わせて、測位精度がどれほどに向上するのか今からワクワクします。
先ほどの「BCN Bizline」の記事でも紹介されていますが、「みちびき」を活用することで“センチメートル単位の精密測位が可能”になるとのことですので、本当に楽しみです。
技術大国ニッポンに、何としても頑張ってもらいたいものです。

ForeAthleteシリーズは、全機種「みちびき」対応

冒頭で、日本で初めてGPSランニングウオッチを発売したのはガーミンだと紹介しましたが、準天頂衛星「みちびき」に対応したランニングウオッチをいち早く投入したのも、やはりガーミンでした。さすが、GPS機器の老舗メーカーです。

ガーミンが「みちびき」に対応したのは、驚くなかれ今からすでに4年も前の2012年のことです。対応機種は、その当時のフラグシップモデルであったForeAthlete 610(Ver 2.6以降)というモデルでした。(この頃はまだ日本版の製品末尾には“J”が付いていませんでした)

ForeAthlete 610

2012年時点で「みちびき」に対応したランニングウオッチというのは、まだガーミンを置いて他になく、FA610は極めて画期的な製品でした。
しかし、一昨年あたりから他社でも「みちびき」に対応した機種を投入し始め、今では対応製品も随分と増えてきたようです。(新しいApple Watch Series2が「みちびき」にも対応しているかどうかは、現在巷に出回っている情報からでは判断できませんでした)
もちろん、現在発売されているガーミンのランニングウオッチは、ForeAthleteシリーズおよびfenix3Jの全機種が「みちびき」に対応しています。

ただ、「みちびき」は日本上空にある衛星なので、ガーミンのランニングウオッチで「みちびき」に対応しているのは、もちろん『日本版』のみです。海外版のガーミンには「みちびき」に対応する機能は搭載されていません。ここは、要注意点です。
もっと正確な言い方をすれば、「みちびき」に対応しているのは、“ガーミンの日本総代理店である いいよねっと社が発売する日本版製品(ForeAthleteシリーズおよびfenix3J)だけ”ということになります。

さて、長々と書き連ねましたが、「みちびき」対応の意義と将来の大きな可能性について、少しでも伝わりましたでしょうか?
ガーミンは、必要に応じて、ソフトウェア・アップデートによってGPS性能を始めとする様々な機能改善が随時行われています。
これから数年間の、計測精度という見えにくい部分での性能向上にも、大いに期待したいと思います。

<追記>
現在、測位衛星のリアルな位置が分かるアプリ「GNSS View」のVer.2.0がこちらで公開されています。
このアプリの中で特にすごいのが「AR Display」という機能です。スマホやタブレットを空に向かってかざすだけで、上空を飛んでいる衛星がバーチャルに映し出されます。
Android版iOS版が用意されていますので、ご興味のある方はぜひダウンロードしてみてください。「みちびき」って本当に真上にあるんだ!ということが手に取るようにわかります。

GNSS View
※ちなみに「QZS」と表示されるピンクの衛星が「みちびき」です。

さいたま国際マラソン新コースを試走!〜ガーミンのルートナビ機能〜

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